今年は、どこの大学もM2の皆さんが就職活動で苦戦を強いられているようです。昨年の楽勝ムードとはまるで様相が異なっています。
一説によると、今年はかの就職氷河期(広義には、卒年で1992年〜2006年だそうです)の底と同レベルなのではないかと言われています。
来年度新卒採用が最終的にどうなるのかは、もう少したってみないとわかりませんが、前々から疑問に思っていたことがあるので、ここでいくつかのデータとともに、その概要を紹介します。
このグラフは、最近約20年間の大卒求人倍率推移です。
私は、何を隠そう1990年修士修了のいわゆる「バブル入社組」でした。(「新人類」とか「ジェネレーションX」と呼ばれた世代ですね。)確かに1990を見るとこの期間で3番目に求人倍率が高い、つまり売り手市場の年だったことがわかります。
そのころと比べて最近の就職事情が悪いと思っている人は多いのですが、どうも個人的な体験として、谷底の超氷河期を除けばそんなに違わないような印象を持っていました。
今日は、それがなぜかを検証してみたいと思います。
次のグラフは、大卒求人数をその年の22歳人口で割った割合(青線、左軸)と、大卒求職者数を同じく22歳人口で割った割合(緑線、右軸)です。
大卒求人数/22歳人口は先ほどの求人倍率の推移と似てはいますが、意外に右上がりだと思いませんか?
1990年前後のバブル期があんまり目立たなくなっていて、2007年からはバブル期を超える求人割合になっているように見えます。
なのに、なぜ求人倍率があまり高くならないのかは、緑線の大卒求職者の割合を見ればわかります。
1990年前後と比べて、同世代のうちで大学に進学し、大卒として求職活動している人の割合が2倍くらいになっているからです。
さもありなん、ですが、これが私の抱いている違和感を説明するグラフではありません。
「違和感は私の見てきた世界に偏りがあることによるのではないか?」と最近気づいたのです。
私自身国立大理系学部を出てメーカーに就職し、そこで仕事をしている間も同僚や仕事でつきあいのある他社の人も圧倒的多数は国立理系出身でした。
千葉大に移ってからも、指導する学生は当然国立理系の学生で、研究上つきあいのある他大学の人たちも、少なくとも国内では国立理系が多数派です。(余談ですが、自然科学系の研究の世界で私立大学の存在感が強いのは、私の知る限りアメリカだけです。)
「はは〜ん。ということは、国立大学という集団を見ていることに原因があるのではないか?」と思ったわけです。
そこで、こんなグラフを作ってみました。
赤線は国立大学の各卒業年度に相当する入学時定員(左軸)、青線は先ほどの求人倍率の分子として使った大卒求人総数(右軸)です。(国立大の定員については、古い情報がすぐには手に入らなかったので、ある程度推計値を使っています。)
国立大学は国内全大学数の1割程度しかないので、人数も少ないですから、左軸と右軸はスケールを変えてあります。
これを見ると、国立大学の入学者数は驚くほど変わっていないことがわかりますね。
どうやら、私の思っていた違和感はこれである程度説明がつきそうです。
世の中の求人数は確かにこの20年間の間に乱高下していますが、国立大学生数を基準にして見ると、最悪の時期でもその4倍くらいの求人があるわけです。しかも、この数年はバブル期を超える求人数があります。
最初のグラフで見た大卒求人倍率の低下傾向は、1990年代半ばから私立大学卒業生がどんどん増えてきたことによるんですね。
その是非はともかく、私の見てきた世界は、国立理系に偏りぎみの世界でしたから、この分母の変化をあまり実感しなかったんでしょう。
本当は、製造業大手限定の大卒求人数推移などのデータも見ながらさらに検証を進めたかったのですが、そういうデータがなかなか長期間そろいません。もう少しデータが集まったら、また検証の続きを行いたいと思います。
MN
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