2009年5月30日土曜日

売り手市場?買い手市場?

今年は、どこの大学もM2の皆さんが就職活動で苦戦を強いられているようです。昨年の楽勝ムードとはまるで様相が異なっています。
一説によると、今年はかの就職氷河期(広義には、卒年で1992年〜2006年だそうです)の底と同レベルなのではないかと言われています。
来年度新卒採用が最終的にどうなるのかは、もう少したってみないとわかりませんが、前々から疑問に思っていたことがあるので、ここでいくつかのデータとともに、その概要を紹介します。


このグラフは、最近約20年間の大卒求人倍率推移です。
私は、何を隠そう1990年修士修了のいわゆる「バブル入社組」でした。(「新人類」とか「ジェネレーションX」と呼ばれた世代ですね。)確かに1990を見るとこの期間で3番目に求人倍率が高い、つまり売り手市場の年だったことがわかります。
そのころと比べて最近の就職事情が悪いと思っている人は多いのですが、どうも個人的な体験として、谷底の超氷河期を除けばそんなに違わないような印象を持っていました。
今日は、それがなぜかを検証してみたいと思います。



次のグラフは、大卒求人数をその年の22歳人口で割った割合(青線、左軸)と、大卒求職者数を同じく22歳人口で割った割合(緑線、右軸)です。
大卒求人数/22歳人口は先ほどの求人倍率の推移と似てはいますが、意外に右上がりだと思いませんか?
1990年前後のバブル期があんまり目立たなくなっていて、2007年からはバブル期を超える求人割合になっているように見えます。
なのに、なぜ求人倍率があまり高くならないのかは、緑線の大卒求職者の割合を見ればわかります。
1990年前後と比べて、同世代のうちで大学に進学し、大卒として求職活動している人の割合が2倍くらいになっているからです。

さもありなん、ですが、これが私の抱いている違和感を説明するグラフではありません。
「違和感は私の見てきた世界に偏りがあることによるのではないか?」と最近気づいたのです。
私自身国立大理系学部を出てメーカーに就職し、そこで仕事をしている間も同僚や仕事でつきあいのある他社の人も圧倒的多数は国立理系出身でした。
千葉大に移ってからも、指導する学生は当然国立理系の学生で、研究上つきあいのある他大学の人たちも、少なくとも国内では国立理系が多数派です。(余談ですが、自然科学系の研究の世界で私立大学の存在感が強いのは、私の知る限りアメリカだけです。)
「はは〜ん。ということは、国立大学という集団を見ていることに原因があるのではないか?」と思ったわけです。



そこで、こんなグラフを作ってみました。
赤線は国立大学の各卒業年度に相当する入学時定員(左軸)、青線は先ほどの求人倍率の分子として使った大卒求人総数(右軸)です。(国立大の定員については、古い情報がすぐには手に入らなかったので、ある程度推計値を使っています。)
国立大学は国内全大学数の1割程度しかないので、人数も少ないですから、左軸と右軸はスケールを変えてあります。
これを見ると、国立大学の入学者数は驚くほど変わっていないことがわかりますね。
どうやら、私の思っていた違和感はこれである程度説明がつきそうです。
世の中の求人数は確かにこの20年間の間に乱高下していますが、国立大学生数を基準にして見ると、最悪の時期でもその4倍くらいの求人があるわけです。しかも、この数年はバブル期を超える求人数があります。
最初のグラフで見た大卒求人倍率の低下傾向は、1990年代半ばから私立大学卒業生がどんどん増えてきたことによるんですね。
その是非はともかく、私の見てきた世界は、国立理系に偏りぎみの世界でしたから、この分母の変化をあまり実感しなかったんでしょう。

本当は、製造業大手限定の大卒求人数推移などのデータも見ながらさらに検証を進めたかったのですが、そういうデータがなかなか長期間そろいません。もう少しデータが集まったら、また検証の続きを行いたいと思います。

MN

2009年5月28日木曜日

カウントダウン その2

ちょっと試しに、このブログの右側にカウントダウンタイマーを付けてみました。
今の設定は、この夏の院試までのカウントダウンです。

「好評」なら、修論カウントダウンとかも作ってみますけど、いかが?
(たぶん、不評のほうが多いと予想しますけど。)

MN

追伸
M2用のカウントダウン追加しました。

2009年5月27日水曜日

薄膜・表面物理セミナー「有機機能性材料・デバイスの薄膜・表面分析」

応用物理学会 薄膜・表面物理分科会主催の第37回 薄膜・表面物理セミナー(2009)「有機機能性材料・デバイスの薄膜・表面分析」が、6月26日に東工大大岡山キャンパスで開催されます。

担当幹事の一人が中村なので、薄膜・表面物理分科会の行事ながら内容がどっぷりと有機エレクトロニクス材料です。

プログラム:
XPSにおける有機材料の試料損傷(仮) 當麻 肇(日産アーク)
XPSとTOF-SIMSによる高分子薄膜材料解析の最新技術 前川 敏彦(富士フイルム)
クラスターイオンを用いた有機材料の質量分析(仮) 平岡 賢三(山梨大)
MALDI-MSによる有機薄膜材料の構造解析 田口 嘉彦(東レリサーチセンター)
Backside SIMSによる有機ELの劣化評価 宮本 隆志(東レリサーチセンター)
NMRによる有機デバイス材料の評価 梶 弘典(京都大)
ESRによる有機デバイスの評価 ―キャリヤ輸送の微視的理解に向けて 長谷川 達生(産総研)
機能性有機材料の光電子分光および逆光電子分光 金井 要(岡山大)
走査型プローブ顕微鏡による有機薄膜FETの評価 小林 圭(京都大)

特に、学生の人は参加費3,000円とお得になっています。
参加申し込みの締切は6月12日(金)です。
こちらから参加申し込みできますので、皆さんこぞってご参加下さい。

※まだ、会場席数に余裕があるようです。

MN

2009年5月14日木曜日

2009年の国際会議

以前のブログサーバートラブルのおかげでタイミングを逸しましたが、今年開催される有機エレクトロニクス関連の国際会議をリストアップします。まだ少ないですが、随時追加します。
時々情報が更新されますので、ご注意下さい。

PD、ドクター学生だけでなく、マスターの人も是非発表を申し込んで参加しましょう!
もちろん発表する人には旅費の補助が出ます。



10th International Conference on Atomically Controlled Surfaces, Interfaces and Nanostructures (ACSIN 10)
2009/9/21-25 Granada, Spain
アブストラクト締切:4/24 <<終了>>
レジストレーション締切:7/15

2009 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM 2009)
2009/10/7-9 仙台, Japan
アブストラクト締切:5/29 9:00am 締切延長
レートニュース締切:7/27

2009 E-MRS Fall Meeting
2008/9/14-18 Warsaw, Poland
アブストラクト締切:5/11 <<終了>>
レジストレーション締切:7/31

The 8th International Symposium on Crystalline Organic Metals, Superconductors and Ferromagnets (ISCOM2009)
2009/10/7-9 ニセコ, Japan
アブストラクト締切:5/20
レジストレーション締切:7/31

2009 MRS Fall Meeting
2009/11/30-12/4 Boston, USA
アブストラクト締切:6/23

The 9th International Symposium on Functional Pi-Electron Systems (FPi9)
2010/3/23-28 Atlanta, USA
アブストラクト締切:2010/1/15
レジストレーション締切:3/1

2009年5月12日火曜日

カウントダウン

毎年、一部のM1学生には伝えていますが、ここにも書き込んでおきます。
4月は浮き足だって、5月は5月病ってのも人情ですが、修士の2年間がいかに短いかをそろそろ覚悟して下さいね。

4月はいろいろな登録やら講習やら引き継ぎやらがあって、多くの人が本格的に実験をやらない傾向にあります。
そうすると、M1で研究を遂行できる期間は11ヶ月。
ここの研究科の場合、2月前半に修論発表があることが普通なので(早いと思いますが)、M2で研究を遂行できる期間は10ヶ月。
さらに、最近の就活事情を見る限り、4月5月はまともに実験できない人が多いようです。ここで2ヶ月引いて、合計19ヶ月。
19ヶ月×30日÷7日=約81週間で修士の研究が終わります。
さらに、多くの人たちはお盆、年末年始は休むでしょう。それぞれ1週間として4週引くと77週。
学会や国際会議などに標準的な回数参加するとして、それで抜けるのが3週/年くらいとすると、71週。
だいたい、実験ができるのはこれくらいです。

私のグループの場合、ミーティングでレギュラーに研究の進行具合を報告し相談するのが隔週ですから、たまに抜けるのを引くと、大抵の人のミーティング報告資料は修士2年間でせいぜい30回分くらいしかありません。
たった30回ですよ。
3回進展無しだと、1割のロス。

以上、修士の2年間がいかに短いか、でした。

MN

2009年5月6日水曜日

ask not what your country can do for you...

しばらく英語から離れていて英語勘が鈍ったなと感じた時とか、これから国際会議に出かけるので、英語の耳慣らしをしておきたいと思った時、第35代アメリカ合衆国大統領であるJ. F. ケネディの大統領就任演説を聴きます。
アメリカの3大演説の一つ(他二つが何かは知らないんですけど。すくなくとも一つはキング牧師の"I have a dream.."でしょうか?)に数えられていますから、多くの人が何度か聞いたことがあるでしょう。

元の演説の動画もネットで見ることができますが、オリジナルはあんまり音が良くないので、最近ではiTuens Storeで英語教材として売っている朗読ポッドキャストを聞いています。皆さんもぜひお試しあれ。

スピーチとしての内容も語り口も優れているのはお墨付きですが、その中の一節でこんな文章があります。


... my fellow Americans, ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.

My fellow citizens of the world, ask not what America will do for you, but what together we can do for the freedom of man.


時代背景として、東西冷戦まっただ中でキューバやベトナムでごたごたしている時期の演説ですから、ケネディ元大統領自身は特定の意味を込めているはずです。しかし、この文章、極めて印象的で汎用的なので、様々なところで自分勝手に引用されています。

私自身も、ときどき自分への戒めにこの文章を唱えることがあります。
この"Ask not what your XXX can do for you; ask what you can do for your XXX."のXXXを、何かに変えるのです。
例えば、会社に待遇や評価で不満ばっかりつのって、自暴自棄になっているとき:
Ask not what your company can do for you; ask what you can do for your company.
あるいは、大学という場が自分にとってプラスになっていないと思ってやる気が失せたとき:
Ask not what your University can do for you; ask what you can do for your University.
(大学教員が学生に向かって直接こんなこと言ったら、自己都合的だと思われるか!?)

大学の研究室も会社も、もっと大きくなって国家であろうと、結局は個々の人間の集合体ですから、一人一人が積極的に良かれと思うことを実行していくことが全体を良くすることにつながるはずです。

MN

2009年5月1日金曜日

日本の製造業を維持するには

「日本の製造業を維持するには,機械や電気・電子,金属・冶金などの基幹技術の専門家が絶対に必要です。」


電気電子系の大学関係者としては極めて心強いお言葉ですが、誰の発言だと思いますか?
日経ものづくり2009年5月号に掲載された「私が考えるものづくり 理科好きを増やす方法」という記事に掲載された、東レCEO&COOの榊原定征さんのご発言です。
化学系学科出身の化学メーカー社長がこういうことを言われるのは意外でしたが、雑誌が雑誌なので機械系の人たちに向けた言葉なのでしょう。日本経済団体連合会副会長・産業技術委員会委員長および内閣府総合科学技術会議議員としての立場から、日本の子供たちの理科離れを憂えたインタビュー記事のようです。

「理科離れ」よりももっと深刻なのが「工作離れ」「ものづくり離れ」だと思います。
電気製品も機械製品もあまりに進化しすぎて素人では修理はおろか分解すら困難になってきています。しかも、ゲームやネットの普及で、子供が成長する過程において目の前のモノを自らの手でいじくるという経験を積む機会がどんどん減ってきています。
さらに、「価格破壊」の名のもとに、粗悪あるいは低級な工業製品が身の回りにあふれて、工業製品は安物使い捨てという風潮が強くなってしまっています。
これでは、工学系の人気が落ちるのもしかたがないですね。
そろそろ、低環境負荷社会や持続可能な現代文明をめざし、世界中で高性能でエネルギー利用効率の高いモノ、高耐久性のモノを大事に長くつかうように舵取りしていかないといけないでしょう。また、そのような高度なモノを創り出す人たちに、社会全体が敬意をはらうようにしないと。

話が変わりますが、私MNも1990年代はずっと東レ社員だったので、この榊原さんの名前と顔は記憶に残っています。
やめた人間が言うのもなんですが、東レという会社は良い会社だと思います。
良いと思う理由はいくつもありますが、その一つが、この方のように研究系・技術系出身の人(榊原さんのキャリアは企画系が長いですが元々研究所におられました)が社長になったり役員になることが多いという点です。メーカーの経営陣の中核はやはり技術系であるべきだと思います。コンシューマー製品が中心の会社だとまた違った意見も出てくるでしょうけど、メーカーであるかぎりは、技術系社員が働きがいを持って意欲的に働く会社のほうが強いのは当たり前です。ところが、営業系や経理系出身者が社長になると、往々にして技術者がやる気をなくすような発言や経営を平気でやります。技術系社員がやる気をなくしたメーカーは長期的に見て没落するしかありません。
そうやって、日本ではいくつものメーカーが10年20年かけて没落してきました。
本当に残念です。

MN